マスカケ線に願いを

「また、そんな顔する」
「?」

 いつの間にか、車は私のマンションの駐車場についていた。

「……スーパーに行くんじゃなかったんですか?」
「冗談だよ。杏奈、疲れてるんだろ?」

 車を止めたユズは私に向き直った。

「杏奈、そんな顔すんな」
「どんな顔ですか」
「泣きそうな顔してる」

 じっと見つめられながら、そんなことを言われた。


 私はふっと笑う。

「泣きそうになんかしてません」
「でも、俺には泣きそうに見える」

 ユズは、そっと私の頬に触れた。
 びくりと身体が震えて、身構えたのが自分でもわかった。
 負けたくなくて、ユズを見つめ返した。

「本当に気が強いよな」

 ユズが笑う。

 堕ちていたときを見られてしまったのは失敗だったと思う反面、私を見つけてくれたのがユズでよかったとも思う。
 だけど、それでも私は、誰にも気を許したくない。

「ユズは、どうしたいんです?」

 私は本当に可愛くないと思う。
 これだけ容姿端麗で、仕事もできて、素敵な男性が私に声をかけてきてくれているのに、こんな言い方しかできない。

 本当は、こんな自分を捨て去って、普通の女の子みたいに幸せになりたいって思うのに。
 本当は、普通に甘えて、甘やかされて、良い関係を築いてみたいと思うのに。

 私の中の何かがそれを許さない。
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