マスカケ線に願いを
「……わかりました。行きますから、ちょっと待っててください」
デスクに弁当箱を取りに戻ったとき、突き刺さるような視線を感じた。
言うまでもなく、久島弁護士や蓬弁護士と仲良くなりたいハイエナ達だ。
私は、そんな視線を気にしないで久島弁護士の元に向かう。
百獣の王達の食べ残しを狙う、自分で狩りをしないハイエナ。
私は貴女達とは、違う。
「おっ、お弁当持参なんだ?」
「はい」
私は久島弁護士について歩く。向かったのは、三階にあるオリエンテーションルームだった。
部屋に入った私達には目もくれず、会議用の多人数デスクいっぱいに資料や本を広げながら部屋を占領していたのは、ユズだった。
明らかに邪魔など出来ない雰囲気に、私は困惑して久島弁護士を見た。
「ユズ」
「後にしろ」
呼びかけた久島弁護士を、ユズは顔を上げないで邪険に扱う。その声は明らかに疲れていて、力がなかった。
「弁当持ってきたぞ」
「後にしろっつってんだろ」
「へぇ? それじゃあ俺がもらっちゃって良いのかな、杏奈ちゃん?」
私が何か言う前にユズは久島弁護士の言葉に思い切り反応して、顔を上げた。私はそのユズとばっちり目が合ってしまう。
目の下に隈を作って、顔色が悪いユズは、傍目に見ても疲れていた。
「杏奈!」
「うぇっ?」
いきなり怒鳴られ、私は身をすくめた。
「幸樹から今すぐ離れろ!」
「……は?」
言われた言葉の意味がわからず、私はきょとんとした。隣で久島弁護士はくすくす笑っている。