マスカケ線に願いを
それを見たユズがむっとした顔で立ち上がると、私の手を引いた。
「え、あの?」
「あのなぁ、ユズ、冗談だよ、冗談」
「お前の冗談は冗談にならない」
むすっと言って、ユズは私を隣に座らせた。お弁当を持ったまま、私はそこに座る。
「えっと……?」
状況がつかめず、私は当てにならないものの、久島弁護士に目で助けを求めた。
ユズは仏頂面のまま、再び資料に向かいだした。
「ユズ、言っただろ? ちょっとは休め。だから大河原さん連れてきたんだぞ」
「杏奈巻き込むなよ」
不満いっぱいの声で、ユズがそう言った。
久島弁護士は顔をしかめた。
「あのな、ユズ。不眠不休で、しかも昼抜きなんて不健康だぞ」
「お前に言われなくてもわかってる。でもこの裁判は気が抜けない」
ということは、この広げられた資料は、蓬弁護士の裁判の資料?
「あ、あの……」
私は慌てた。
「ここに私がいたらまずいんじゃないんですか? 守秘義務とか……」
「杏奈は誰にも言わないだろう?」
ユズが顔も上げずにそう言った。
しかしそういう問題じゃない。
「それに、休んでないって本当ですか?」
私がこんなことを言える立場ではないことはわかっている。
だけど、こんな疲れきったユズを見ていたくなかった。