マスカケ線に願いを
「お昼ご飯も抜く気ですか?」
「……む」
「む、じゃありません。そんなんじゃ勝てる裁判も勝てませんよ。ご自分をいたわってください」
私の言葉に、久島弁護士が微笑む。いつの間にか久島弁護士の前には買ってきたお弁当が置いてあった。
「ほら、大河原さんに怒られてる」
ユズはがしがしと頭をかいた。
「わかったよ。食べるから!」
ユズは久島弁護士の隣に移動した。ユズに手を引かれた私もせわしなく移動した。
市販の弁当を手にしながら、ユズは私を見る。
「杏奈の弁当なら抜いたりしないのに」
「なんですか、それは作れということですか?」
横目で私の弁当を見ているユズ。
「味気ないだろう、市販の弁当じゃ」
「生産者の愛情はこもってるぞ」
冗談めかして言う久島弁護士。
「なあ、大河原さん。俺も杏奈ちゃんって呼んでいい?」
「え」
戸惑った声を出す私に、久島弁護士は笑った。
「なんだ、ユズ専用か?」
「いえ、違いますから。職場以外なら、なんとでも呼んでください」
そう言ってから、私はユズを見る。
「蓬弁護士も。ここは職場です」
「堅いこと言うな。幸樹と俺しかいないんだからいいんだよ」
ユズはにこっと笑いかけてから、ご飯をかきこんだ。それは食事を取るというより、胃に流し込んでいると言うのが相応しい光景だ。