マスカケ線に願いを
久島弁護士の言葉に、私は目を丸くした。
「そんときも、今みたいに飯も食わずで睡眠不足。よく裁判中に倒れてくれなかったもんだ」
呆れてものも言えないとはこのことだ。視線を向けてみれば、ユズは知らぬ顔でそっぽを向いている。
私はそっとため息をついた。
「蓬弁護士、お願いですからご飯くらいはきちんと食べてください」
「杏奈がうちに作りに来てくれるならいくらでも食べる」
この人は……。
頭を抱えてしまった私の代わりに、久島弁護士が笑い出した。
「ユズ、お前、子供みたいなこと言うなって」
「幸樹は知らないだろうけど、杏奈は凄い料理が上手いんだぞ」
「へぇ、そうなのか?」
久島弁護士はちらりと私の弁当を見た。
「それでも、杏奈ちゃんだって仕事してるんだから無茶は言うな」
「そうだな。杏奈も忙しいもんな」
「……暇をもてあましていたら、考えても良いですよ」
「まじか!」
子供みたいに目を輝かせるユズが面白くて、私は微笑んだ。
「その代わり、何でも良いのでちゃんと食べて裁判に備えてください」
「わかった」
ユズはさっさと弁当を完食すると、再び資料と睨めっこを始めた。私も食べ終わったので、立ち上がった。
「それじゃあ、これ以上は本当に邪魔になってしまうので」
「あ、わざわざありがとうな」
久島弁護士が笑顔でそう言った。