マスカケ線に願いを
「あの」
「ん?」
言おうかどうか迷ったけど、平穏な生活が崩れるのは嬉しくないので、きちんと伝えることにした。
「久島弁護士も蓬弁護士も目立つので、一緒にいると私も目立ってしまうんです」
「俺達といなくても杏奈は目立ってる」
顔も上げないでユズが言った。
「そうなんです。私も十分目立つらしいので、これ以上は目立ちたくないんです」
「それは、俺達と一緒にいたくないってことかな?」
久島弁護士が首をかしげながら訊ねた。
「いえ、そういうことではなくて、あまり親密にしているところを同僚には見られたくないんです」
「ああ、そういうことね」
久島弁護士は私の言いたいことをわかってくれたらしい。何かを言う代わりに携帯を片手にした。
「それじゃあ、メアドでも教えてくれよ。今度からメールするから」
その言葉に、ユズが勢いよく顔を上げた。
「俺より先にメアド訊くってどういうことだよ」
「え、お前知らなかったの?」
しまった、と思ったが、もう遅い。
「杏奈にそんな隙があるかよ」
そう言いながら、ユズは自分の携帯を久島弁護士に投げた。片手でキャッチした久島弁護士は、ユズの携帯をいじる。
「杏奈ちゃん?」
「あ、はい」
直接こられるよりは、メールのほうが良いだろう。
そう自分に言い聞かせ、私は赤外線でメアドを送った。