マスカケ線に願いを

 忍び寄る影


 久島弁護士が私を迎えに来たのは、噂に拍車をかけた。おかげで蓬弁護士に飽き足らず、久島弁護士までたぶらかした女のレッテルを張られている。
 この派手な見た目のおかげで、男好きという印象が強いらしい。
 頭が痛い事態でもあるし、非常に不名誉だけれども、言いたいことは言わせておけばいいと割り切っている。
 第一私が反論したって、彼女達は聞く耳を持たないだろうし、事態は悪くなれども、好転することはないのだから。


 携帯を確認すると、新着メールが二件。

『おはよう。今日はユズの裁判の日だよ。メールしてあげて』
『おはよう! 例の裁判今日だから、行ってくるな』

 久島弁護士とユズのメール。絵文字をあしらった久島弁護士に比べて、シンプルで簡潔なユズのメール。
 私は少しだけ微笑んで、ユズに頑張ってくださいねと返信した。

 支度をしてマンションを出ようとしたとき、ふと郵便受けが気になった。そっと私は郵便受けに近づいた。白い紙が挟まっている。

「?」

 昨日帰宅したときに郵便物は全て確認したし、郵便配達は昼ごろに回るので、これは郵便物ではなく、誰かが直接入れたものなのだろう。
 私は気をつけながらも、そっと白い紙を抜き取った。それは、二つ折りにされた綺麗な便箋だった。しかし、封筒には入れられていない。

「……?」

 私はそれを開いてみた。
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