マスカケ線に願いを

「結構綺麗なんですね」
「だろ」

 雨ざらしになってるはずのその場所は、誰かが清掃しているのか、コケや汚泥があるわけではなく綺麗だった。ベンチまで置いてあった。

「司法書士はあんまり上がってこないからな」

 そう。二階にオフィスを構える私達がわざわざ上に行ったりしないのだ。
 軽く払ってベンチに座った久島弁護士に習って、私も隣に座った。

「今日も手作り弁当だね」
「はい。市販のお弁当だと多すぎるときがあるので。栄養も偏りますしね」

 久島弁護士は感嘆の声を漏らす。

「沢山仕事もあるだろうに、まめだね」
「簡単なものですから」

 久島弁護士も自分の弁当を出す。

「あれ、そういう久島弁護士も手作り弁当ですか?」
「ああ、妹がな」
「妹さんがいらっしゃるんですか」

 お兄ちゃんのために手作り弁当を作るなんて、微笑ましい。しかし久島弁護士は何やら険しい顔をしている。

「いや、花嫁修業の一環らしい」
「花嫁修業、ですか」
「あんな生意気で可愛くない妹も嫁に行くんだな」

 といいながらも、妹さんを語る久島弁護士はどこか嬉しそうで、悔しそうだった。

「……もしかして、久島弁護士は妹さんを溺愛しちゃったりしてます?」

 私の言葉に、久島弁護士は目を見張った。そして笑う。

「はは、やっぱり杏奈ちゃんはズバッとものを言うね」
「あれ、冗談のつもりだったんですけど、本当にそうでした?」
「いや、今のは全然冗談に聞こえなかった!」

 そんなふうに笑いながら一緒にお弁当を食べる。
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