マスカケ線に願いを
「裁判、そろそろ始まる頃だと思うよ」
お弁当が空になっておなかを慣らしていると、久島弁護士がそう言った。
「ユズ、倒れないといいですね」
「全くだよ」
ふと久島弁護士が面白そうに私を見た。
「どうしたんです?」
「いや、杏奈ちゃんがユズって呼んでたから」
「ああ」
私は苦笑した。
「人前では蓬弁護士って呼んでるんですけど、ユズって呼べって言われてるんです。ここには誰もいないから別にいいでしょう」
「俺のことも幸樹でいいんだぜ」
私は久島弁護士を見た。口元に笑みを浮かべ、挑戦的に私を見ている。
「うーん……呼び捨てはどうも」
ユズはニックネームだけど、幸樹だと下の名前を呼び捨てになってしまうから抵抗ある。
「それなら、コウとでも呼んでみる?」
「コウ、ですか」
ためしに口にしてみると、久島弁護士がくううっと唸った。
「?」
「いや、ちょっと昔妹がコウ兄って呼んでたの思い出して」
「今じゃ呼んでくれないんですか?」
私が首をかしげると、久島弁護士は険しい顔をした。