マスカケ線に願いを
「今の杏奈ちゃんくらいになる前から、嫌がられてさ。クソ兄貴って呼ばれてる」
久島弁護士が悲しそうに言うもんだから、私は悪いとは思いながらも噴き出してしまった。
「笑うなよ」
「いや、だって。それなら、コウ兄って呼びましょうか?」
私がそう言うと、久島弁護士は目を丸くして、そして少し頬を赤く染めた。
「なんですか、その反応は」
「だからそうズバっと言うなって! い、妹をだな、思い出して!」
事務所の看板のエリート弁護士の一人は、随分シスコン弁護士だったらしい。
「意外ですね、久島弁護士はシスコン弁護士さんだったなんて」
「シスコン弁護士はやめろっ」
久島弁護士改めシスコン弁護士は、焦りながらそう言う。
「冗談ですよ。コウって呼ばせていただきます」
「……本当、杏奈ちゃんって面白いな」
「そうですか?」
面白いと言われるのは、珍しい。
「面白いっていうのとは違うかな。なんか、相手したくなる」
「光栄です」
そういえば、ユズにも放っておけないって言われたけれど、私はそんなに相手をしたくなるような人間かな?
きっと変わってるのは私じゃなくて、ユズやコウだ。
「私、ユズやコウよりは随分まともだと思いますよ」
「どういう意味だ、それ」
そうやって笑うコウは、なるほど女の人が騒ぐだけある。どこかでモデルでもやっていてもおかしくない容姿なのだから。
「なあ、ユズのことどう思う?」
「え?」
突然の質問に、私は首をかしげた。