マスカケ線に願いを

「どういう意味ですか?」
「男として、どう思うかってこと」

 コウの言葉に、私はしばし沈黙する。

「……男の人としては申し分ない人なんじゃないでしょうか。エリート弁護士って呼ばれてるくらいですから、衣食住には困っていないでしょうし。少し性格に難があるかもしれませんけど」

 そして紡ぎだした私の答えに、コウは目を丸くした。

「なんか、物凄く他人事のような答えだな」

 私は肩をすくめた。

「正直、他人事です」

 コウがぶっと噴き出した。私はため息をつく。

「コウの質問の意味はわかってますよ。ユズが私の恋愛対象になるかってことでしょう?」
「わかってるならいい」

 コウが真顔でうなずく。

「私は、あんまりそういうこと考えたくないんです」
「なんで?」
「……言いたくありません」


 頑なな私の心だって、情にほだされることがある。
 一人でなんでもできたって、二人でいるときの方が、心が落ち着くときがある。
 守ってもらえると、安心することだってある。

 少しでも歩み寄ろうとした私の心を踏みにじるのはいつだって男の方だ。

『杏奈は俺なしでも生きていけるだろ?』

 そんなこと、私一言も言っていないのに。
 私と一緒にいてもつまらないならそう言ってくれればいいのに。

 そんな綺麗な言葉を使わないで。

 私に飽きたって言えばいいのに。
 何でも器用にこなせる私のせいみたいな言い方しなくてもいいのに。

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