マスカケ線に願いを
黙りこくった私に、コウは咳払いをした。
「ごめん。ちょっと調子に乗りすぎた」
「いえ」
「俺の悪い癖だ。女の子の深いとこにすぐ首突っ込もうとする」
ぽりぽりと頭をかきながら言うコウに、納得する。
「だから彼女がいないんですね」
「だからそうずばっと言うなって」
私達は一緒に笑った。
職場からスーパーによって買い物を済ませた私は、歩いてマンションに向かっていた。
そのとき、携帯の着信を知らせる振動が私の手提げ鞄を揺らした。
「……もしもし?」
歩きながら、携帯に出た。
『おう、杏奈?』
「あ、ユズ。裁判、お疲れ様でした」
『ああ、ありがとう』
夜道を歩いているときに、誰か話す相手がいるというのは良いものだ。
「やっとゆっくり眠れますね」
『おう。杏奈が隣で寝てくれたらいいのに』
「なんですか、それ。夜のお誘いですか?」
『いや、晩御飯の同伴の誘い』
あっけらかんと言うユズがおかしくて、私はくすくすと笑う。