マスカケ線に願いを

「時間は大丈夫ですか?」
「ああ。杏奈も座って」

 ユズがぽんぽんと自分の隣を叩いた。私は戸惑いながら、隣に座った。

「明後日から出張だからさ、ちょっと充電」
「出張ですか」
「おう」


 どうしようもなく、どきどきする。
 ユズといると、甘えたくなる。

 そんなふうに思ったら、また馬鹿を見るだけなのに。

 ユズは、私のことをどう思っているんだろう?


「杏奈?」
「はい?」

 ユズはにこりと笑って、私の頭をなでた。
 私は目を見張って硬直する。

「やっぱ、髪下ろしてると雰囲気変わる」
「そう……ですか?」
「おう。なんか、獲って食いたくなる」
「それなら今度から、ユズと会うときはちゃんと髪上げておかなきゃ」

 私の言葉に、ユズはふふっと笑った。

 ユズは、気づいてる?
 私の心臓が馬鹿みたいに鳴ってるってこと。
 ユズは、気づいてる?
 貴方の思わせぶりな態度が、私を揺るがしてるってこと。

「ほんと、放っておけない」
「私ですか?」
「俺がいなくても、他の男にひょいひょい着いていくなよ!」

 しかつめらしく言うユズがおかしい。
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