マスカケ線に願いを
「杏奈ちゃん、疲れてない?」
屋上で会ったコウは、開口一発そう言った。
疲れてる自覚はある。例のストーカーのせいだ。
「ちょっと仕事が多いもので」
「ああ、時期的にな。金融関係の仕事か」
「さすがですね」
この時期に金融関係の仕事が増えるのは本当のこと。コウはあっさり信じてくれたらしい。
ふうとため息をついて、お弁当に手をつける。
「ユズがいないと、つまらないんだよね」
コウがぽつりと呟いた。私は呆れて、
「もしかして、私をお昼に誘うのってそれが理由ですか?」
「あ、ばれた?」
舌を出すコウに、私は苦笑した。
「私でユズの代わりになりますか?」
「ユズの代わりっていうより、妹と一緒にいるみたいな気分になる」
「やっぱりシスコンですね」
「うるさい」
そんな他愛もない会話をしていると、私は少しだけ嫌なことを忘れられた。
「出張って言っても、すぐ帰ってくるから、あいつ」
「仲良くて良いですね、ユズとコウ」
「まあ、漫才コンビだからな」
くすっと笑いながら言うコウ。私も笑う。
「俺、結構自信あるよ」
「何にです?」
コウの唐突な言葉に、私は首をかしげた。
コウはにやりと意味ありげに笑った。