マスカケ線に願いを
「ユズは杏奈ちゃんに一目惚れしたって」
「……え?」
予想もしていなかった言葉に、私は間抜けな声を出してしまった。
「一目惚れって……初めて会ったときにですか?」
「おう。あれからユズは杏奈ちゃんのことばっかり考えてる」
「嘘でしょう?」
ユズが私を気にしてくれているというのはわかるけれど、一目惚れっていうのはどうかと思う。
「思春期真っ盛りの中学生じゃないんですから、一目惚れはいくらなんでも……」
「んじゃあ、言葉を変えて、杏奈ちゃんがユズのもろタイプだった」
「……私みたいなタイプが好きなんですか? 変わってますね」
私みたいに気が強くて、強情で、可愛くない女のどこがいいんだろうか。
「いや、君みたいな子がタイプっていうより、君がど真ん中だったんじゃないかな」
「……ど真ん中って」
言葉の選び方に少し世代の差を感じる。
「もしもだけど、ユズが付き合ってくれって言ったらどうする?」
悪戯っ子のような笑顔で聞かれ、私は言葉に詰まった。
ユズは、一緒にいて暖かくなれる人。
一緒にいると、楽しい人。
それに、私を包み込んでくれるような包容力のある人。
申し分のない人だけど、私には勿体のない人。
きっと、すぐに私に飽きて、おいていってしまうのだろう。