マスカケ線に願いを


「……杏奈ちゃん? ごめん、なんか悪いこと聞いたのかな」
「え、いえ……」

 心配そうに私を見たコウに、私は首を横に振った。

 また堕ちそうになった。
 最近、心がずいぶん揺れている。

 誰かを好きになれば、気分は高揚するけど、私は弱くなる。
 一人で生きられなくなるのは、嫌だ。

 誰かに頼って、依存して――そして、別れたときに一人で生きられなくなるのが怖い。

 だから私は一人で立って、背筋を伸ばして、強く生きてるんだから。
 些細なことで、心が堕ちてしまうのは、うれしくない。

「なんか、ユズが言ってたのわかった気がする」
「え?」

 コウは、眉尻を下げてそっとため息をついた。

「俺は、初めて会ったときから、杏奈ちゃんはしっかりしてるイメージだったんだけど、ユズは違ったみたいなんだ」

 しっかりしてる。
 それは、誰もが口をそろえて私を称する言葉。

「ユズは、杏奈ちゃんがどこか危なっかしいって言ってた。危なっかしいから、放っておけなくなるって」

 ユズは、私にもそう言った。

「今までずっと不思議に思ってたけど、確かに杏奈ちゃん、ときどき放っておけない感じがするね」
「男の人は、そうやって私に言い寄るんですよ」

 駄目だ。

「私がしっかりしてるから、守ってあげたいって近づけば私が落とせると思ってるんです」

 駄目、止まってよ、私の口。

「でも、しばらくしたら、すぐに私に飽きるんですよ」

 なんで、そんなこと言うの。
 そんな、可愛くないこと、言わなくて良いのに。

「……杏奈ちゃん」

 私の言葉に、コウは目を丸くした。
 後悔先に立たず、私はうつむいた。
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