マスカケ線に願いを
その日も、郵便受けには何も入っていなかった。
「あ、大河原さん」
翌日、仕事場から帰ってきたとき、管理人さんに声をかけられた。
「良かった」
「どうしたんです?」
駆け寄ってきた管理人さんは、私を引き止める。
「昨日、大河原さんにって、預かったものがあるんですよ。でも、昨日、僕ちょっと昼から出かけてまして」
「そうなんですか?」
「ちょっと待っててください」
管理人さんは管理事務所へ向かった。戻ってくると、彼の手には薔薇の花束があった。
「……花束……?」
受け取った私は、カードなどがついていないか調べるけど、それはただの花束だった。
「これ、誰からですか?」
「名前は言わなかったんですけど、スーツ姿の背の高い格好いい男の人でしたよ。男の僕が惚れ惚れするくらい良い男でした」
スーツ姿の、いい男?
昨日の朝……もしかして、ユズ……?
どきっ……
「それじゃあ」
「あ、わざわざありがとうございました」
ユズが、これを私に?
結構ロマンティックなところがあったんだ。
嬉しさを胸に、部屋に戻ってからメールをしようと、エレベーターに乗り込んだ。
エレベーターには、背の高い男の人が乗っていた。