マスカケ線に願いを



 どれくらいの時間が経っただろう。
 包み込まれている感覚が、心地よくて、不安は涙と一緒に流れ去っていた。

「……ごめんなさい」

 私は小さな声で、ユズに謝った。ユズは私の頭をなでた。

「言うのは、ありがとうだろ」

 私は顔を上げた。真っ赤になってるであろう目で、ユズを見る。ユズはそんな私の頭を押さえつけて、自分の胸にうずめた。

「そんな目で見んな。男は狼なんだぞ」
「……ユズ、来てくれて、ありがとう」

 ぎゅっとユズの服を握って、私は言った。


 私は完璧なんかじゃない。
 普通の女の子と同じように、守ってもらいたいって思うこともあるし、今日みたいなことがあったら、怖いって思うのは当たり前だ。
 すかしてるって言われたり、どうにかなっちゃえばいいって言われたり、なんで見た目だけでそんなふうに判断されないといけないの?
 でも、私は強情だから、背筋を伸ばして、そんなことを言う人達を相手にしたくない。

 だから、弱くなんかなりたくないのに。

 それなのにユズは私を甘やかす。


 それが、心地よくて、一緒にいたいって願ってしまう。



 マスカケ線って、未来を自分の手でつかむ手相なんでしょう?
 たまには、頼ってもいい?
 今くらいは、願ってもいい?

 今だけでも、この人と、一緒にいたいって。

 今だけだから。
 明日になったら、いつもの私に戻るから。


「ユズ……今日は、一緒にいてください……」

 少しくらい、弱音を吐かせてください。

 すると、ぽんっと頭をなでられた。
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