マスカケ線に願いを
怖い。
のめりこむのが怖い。
ユズを好きになって、弱くなってしまうのが、怖い。
「ユズに敬語使うのやめる」
だから、今はこれだけしかできないけど、それでもいい?
まだ、私に一歩を踏み出す勇気はない。
だけど――。
「私に、ユズのことを信じる勇気をちょうだい」
これが、私に今できる精一杯。
なんでも器用にできるけど、こうすればうまくいくって、計算するのは上手だけど、私は自分の心に素直になるのが苦手なの。
なんでもほかのことを器用にこなすと、自分のことが後回しになるの。
ユズ、そんな私を、頑なな私の心を、もっと揺らして。
「杏奈」
ぎゅっとユズに抱きしめられて、私はユズをおそるおそる抱き返した。
ねえ、私のマスカケ線。
この腕の中の温もりは、やっぱり私を置いていってしまうものなのかな?
「今日は、一緒に寝るか」
悪戯っぽくユズが言う。
「またいい子いい子してくれるの?」
「いや、今日は抱っこして寝てやる」
私は笑った。