マスカケ線に願いを

「……怖かった」
「杏奈……」

 本当に、怖かった。
 ユズが来てくれて、本当によかった。

 来てくれたのがユズで、本当によかった。

「さっきね」
「うん?」
「管理人さんが薔薇の花束を渡してくれたの」

 ユズは私の言葉を待つ。

「スーツ姿の、背の高い格好いい男の人だって言ってたから……私、ユズからだと思ったの」

 心地よいまどろみに、意識が遠くなるのを感じた。

「私……嬉しかったんだよ」
「杏奈」

 目を閉じた私の瞳から、涙がこぼれた。

「おやすみ」

 暖かいものが、目じりに触れたのを感じて――私は意識を手放した。



 目を覚ましたのは、締め付けられるような違和感からだった。

「ん……」

 ゆっくりと目を開けた私は――、

「っ!」

 かすむ視界いっぱいに、ユズの顔があって息を呑んだ。
 そういえば、一緒に寝たんだった。

 ユズは、ぐっすりと眠っている。
 問題は、ユズが抱き枕のごとくがっしりと私を抱きしめていること。

「……」

 完全に、身動きが取れない。
 仕方がないので、ユズを眺めることにした。
 眠っているユズを見るのは、二度目。いや、昨日ちょっと寝顔を見たから、三度目?
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