マスカケ線に願いを

 ……格好いい。

 端正な顔立ちで、本当に格好いい。
 私には、勿体のないような人。

 素直に、この人に甘えられたら、どれだけ幸せなんだろう。
 守られるだけの女の子になって、甘えて、好きって素直に言えて――そんな、可愛らしい女の子になれたら、どれだけ幸せなんだろう。

 そんなことをぼんやり考えていると、ふと、何かが動いて、はっとする。

「?」

 ユズはぐっすり眠っていて、私を放す気配はないけど……なにか足に……、

 と、そこまで考えて、私は赤面した。

 ユズは男の人であって、眠っているわけで、そういうことが起きるのは生理現象であって、仕方のないことなんだろうけど!

 当たってる……っ

 私は軽くパニックを起こす。
 そ、そりゃあ、私は生娘じゃないし、経験がないわけじゃないけれど、かと言ってこの状況が恥ずかしくないわけがない。
 逆に私とユズは健全な関係だから、余計に恥ずかしい。

 私が一人であたふたしていると、ユズがもぞもぞと起きだした。

「む……」

 目を細めて、しばたたかせて、ばちっと私と目が合う。

「ん、杏奈……おはよ」
「お、おはよう……」

 にこっと笑ったユズが、ぎゅうっと私にしがみつく……って、当たってるから……っ!

「ゆ、ゆ、ユズ、あの、ちょっと離れて……っ」

 真っ赤になった私は、ユズを押す。ユズは不満そうに眉をしかめた。
< 93 / 261 >

この作品をシェア

pagetop