マスカケ線に願いを

「飽きられる美人は、美人だけが取り柄なんだろ? 杏奈は料理もできて頭も良いじゃないか」
「頭のいい美人も敬遠されるっていうけどね」
「そうかな? 下手に話が通じないほうが面倒だけどな」

 食器を洗い終わった私は、手を拭く。

「随分前に付き合った彼女が、ちょっと勉強が苦手な子だったんだけどさ」

 当時のことを思い出しているのか、ユズが顔をしかめている。

「最初はいろいろ教えてあげるのが良いかなとも思ったけど、後からどんどん疲れてきてさ」
「それはちょっと酷いんじゃない?」

 苦笑するけど、ユズの気持ちもわかるような気がした。頭が空っぽな男は話してて疲れるから。
 何もない脳みそをかき回したくなるときがある。

「長く付き合うなら、やっぱ対等なのが一番だろ」
「そうかもしれないね」

 私は笑って、タオルを置いた。

「それじゃあ、ちょっと準備してくるね」
「なんだ、俺の前で着替えてくれると思ったのに」
「馬鹿っ」

 くすくす笑ってるユズは、この前からちょっと発情モードだ。

「仕事ができる男は、色も好きだからな」
「最低っ」

 私はさっさと自分の部屋に入った。
 ブラウスに、パンツというラフな格好で、髪の毛は簡単に整える。さっと化粧もして、リビングに戻った。
 ソファに寝転がっているユズを覗き込むと、ばちっと目が合った。

「っ」

 その瞬間、ユズがばっと顔を隠した。
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