マスカケ線に願いを

「え、何?」
「なんでもない」

 しばらくそのままで動かなかったユズ。

「ユズ?」
「ふう、さて、行くか」

 声をかけると、何事もなかったかのように立ち上がった。

「?」

 私は首をかしげ、手提げカバンを手に取った。

「待って」

 火元を確認して、窓の鍵も確認する。カバンの中に紙切れが入っているのも確認して、ユズの後に続いた。



「じゃあ、今度は杏奈が待つ番な」
「うん」

 ユズの部屋に来るのは二度目。ユズがしばらく出張に行っていたせいか、空気の匂いが違う。

「ユズは準備してて。私、空気を入れ替えておくね」
「ああ、ありがとう」

 窓を開けて、新鮮な空気と入れ替える。埃は体に悪いから、簡単にフローリングも掃除する。
 それが終わって、特にやることもなくのんびりする。

 誰かのために、こうやって体を動かすのも良いかもしれない。
 そんなことをぼんやり考えていると、ひょいっと横手からユズが顔を出した。Tシャツにシャツを羽織ったジーパン姿に、私はぽかんとする。

「どうした?」
「いや、そういえば、寝巻き姿は見たことあるけど、私服は初めてだなって思って」
「俺は杏奈の私服二度目だけどな。パンツルックは初めてだ」

 ぽんと私の頭に手を置いて、微笑んだ。
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