下剋上はサブリミナルに【BL】
「い、いや、何か、ああいう言い方されたのって初めてだから、ちょっと感情が高ぶっちゃって…」


洸はしばらく無言で指を動かしていた。


そのポーカーフェイスからは何の感情も読み取れず、オレは何やら落ち着かない気分にさせられる。


「フン」


しかし、ふいにその手を離すと、洸はいつもの調子で憎まれ口を叩いてきた。


「良い年して、泣き虫め」

「な!」

「もう帰るぞ。お前バイトだろ」


誰のせいで遅くなったと思ってんだよ!


ああくっそ。

不覚にも、一瞬コイツと心が通い合ったような錯覚に陥っちまったじゃねーかよ!


悔しさと怒りのあまり大股で歩き出し、すでに数メートル先を行っていた洸を追い越して、昇降口へと向かった。


だけど……。


感情のポテンシャルが日常に戻ったのと同時に、それと比例して憂鬱な気分も盛り返す。


斉藤の先ほどの、涙に濡れた、キツい眼差しを思い出した。


オレって、何でこうタイミングが悪いんだろ。

これでまたオレ、斉藤に、無駄に反感を買われてしまったんじゃなかろーか。
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