アンダーサイカ




「……なんでだよ、なんで……、


今更、稔のことを思い出さなきゃなんないんだよ…ッ!?」



二人のうち一人が、くらりとよろめいた。


でもそれはバランスを崩したんじゃなくて、


―――腕を…振りかぶってる……?


ギュッと握りしめた拳が目一杯体の後ろに引っ張られてる。

その標的は恐らく………いや、間違いなく、“私”。



お兄さんは怒りとか憎しみとかそんな強気な感情は保っていられなかったらしい。
代わりに目にうっすら涙を滲ませて、ギリギリまで追い詰められた最後の手段として、相手に反撃するネズミみたいな……。



つまり、このままじゃ、



―――殴られる…っ!



顔を庇う暇すらなくて、私はお兄さんの動きをただ食い入るように見つめるしかなかった。


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