アンダーサイカ
でも、稔兄ちゃんは首を横に振る。
「…いや、それならいいんだ。
ヨシヤって呼んでるんだね。
ボクは一度も呼ばなかった。」
「あ…。」
そうか。知り合った時、二人は商売人同士…。
名前の支配があるから。
―――ん?でも、じゃあなぜヨシヤは「ミノルくん」って…。
「ねえ豊花、今からボクの店に遊びに来ない?
…ここから少し遠いんだけど、どうしても豊花に見せたいものがあるんだ!」
私の胸に宿った小さな引っ掛かりは、稔兄ちゃんの笑顔の前には跡形もなく消されてしまった。
稔兄ちゃんと一緒にお出かけできる。
それがまた嬉しくて、余計なことを考えるのが馬鹿らしく思ってしまったんだ。
「…あ、でもヨシヤにここにいろって…、」
「大丈夫だよ。ボクが付いてるんだから。
ね?おいでよ豊花。」
「うーん………。…うん、じゃあちょっとだけ!」
稔兄ちゃんに手を引かれて、私はお店の裏口から廊下へ出た。
それは、ヨシヤがいる場所とは真逆の方向…―――。