アンダーサイカ
1960年代。
僕は死せる時まで、東京のとある町に両親とともに暮らしていました。
榮 義也(さかえ よしや)という、人間の名をまだ持っていた頃です。
「…義也、ここへ座りなさい。」
父の冷たい声が、広い家の中にただ響きました。
僕にはすぐ予想がついた…。父はよく、自分の人生観を語って聞かせることがありましたから。
「はい、父さん。」
大学の研究が一段落し帰宅できたと思った矢先にこれだ。
しかし僕は嫌な顔はせず、大人しく父の前に正座しました。
「大学はどうだ。順調なのか。」
「…?」
そんな問いが来るとは予想していなくて、一瞬反応が遅れました。
「はい、とても。
父さんのお許しを得て、薬学を専攻できて良かったと思っています。
僕は医療面で人のお役に立てます。父さんの教えのとおりに…。」