アンダーサイカ
駆け出した時だ。
――どぷん、と、
「ッ!?」
ぬかるみに足をとられた感覚があった。
変だ。ここに水辺はないのに。
そう思い、私は視線を足元に落とす。
「…なにっ、これ…!?」
私の片足が“床に沈んで”いた。
よく見れば、オバケの足元の床がじわじわと変色していく。
黒く、黒く。
オバケが体にもともと纏っていた液体。その不可解な黒が独りでに広がり、辺りを泥や油に似たぬかるみに変化させていた。
「…っ…!」
私はすぐに抜け出そうと試みたけど、足は簡単には抜けない。
戸惑い、顔を上げた時、
私は、こっちを振り返っていたオバケの真っ赤な目玉を見た。
【オマエモ ツレテ イク…。】
抑揚の無い声。一瞬、何て言ってるのか分からないほどに。
けれどオバケが、太い前足をこっちに伸ばしてきたことで意味を知る。
私は反射的に身構えた。