アンダーサイカ
けれどその笑みは、肯定の意味ではなかった。
「……いいや、吾(わたし)はそんな明瞭な存在じゃあない。
もっとあやふやなものだよ。」
「………え…?」
そう。それは、
―――自嘲だ。
…ヨシヤが見せた自嘲より遥かに、開き直った印象があるけど。
姿は人鬼のよう。オバケたちとも似つかない、見たことのない人物。
彼はおもむろに両手を広げた。
「…改めて、地上の子よ。賽の河原への来訪を歓迎しよう。
…いや、君の世界ではこちらのほうが馴染み深いか。
ようこそ、アンダーサイカへ。
“西城 豊花”…。」
「………っ?」
なぜ私の名前を知っているんだろう。
誇らしげに口上を述べた直後、彼は俯きがちだった顔をほんの少しだけ上げて見せた。
帽子のつばの奥にちらりと見えた瞳は、
ぞっとするくらいに綺麗な…紫色をしていた。