あの頃、テレフォンボックスで
それは

ピアスの金具だった。



耳たぶのうしろで
ピアスを留める、キャッチ、という
あの小さな金具。


金色に光り
両サイドで左右対称にきれいに
円をえがいている。
女性らしい形をして。



胸のあたりが
急にざわめきだした。


こんなものが
胸ポケットに落ちるはずがない。


夫ほど慎重な人が
自分からポケットに入れるはずもなければ
そのことを忘れて
脱ぎ捨てるなんてことありえない。



誰かが入れたのだ。


意図的に。


悪意をもって。



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