あの頃、テレフォンボックスで
そのとき、突然チャイムが鳴り、
二人の動きは
一瞬にして止まった。



張りつめた空気の中で
耳を澄ましていると
ガチャっと鍵の開く音が聞こえた。


ケイタは飛び起きて
シャツの裾をひっぱり
髪に手を当てながら玄関へ歩いて行く。


私もまた、
ソファに座りなおして
服や髪に手をやる。


冷めたコーヒーに
手をかけようとするけれど、
うまく握れない。


やがて、話し声と
足音が近づいてきた。



二人がリビングに入ってきたので
咄嗟に立ち上がる。
無意識にスカートの裾をつかんだまま。


「こちら、
佐山さん。後輩のお母さん。
えっと、俺のアニキ。」


ケイタの目が私を見つめて
「大丈夫、」と言っている。


「あ、ども。」


「どうも、いつもお世話になってます。
佐山です、はじめまして。」


「アニキ、明日から出張だから
早めに仕事切り上げて
準備のために帰ってきたんだって。
どこ行くんだっけ?東京?」


「埼玉だよ、二週間。」


私はもう鞄に手をかけていた。







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