あの頃、テレフォンボックスで
携帯の着信音が鳴るまでの数時間、
ずっとソファにいた。
帰ってきたままのその姿で、
何もできずに。



・・・・電話が鳴ってる。


ハッとして、鞄から携帯を取りだす。



「もしもし・・・・トーコさん?」


ケイタだ。


「今、アニキ、シャワー浴びてるから。
・・・・大丈夫?ごめんね。」



「こんなこと絶対ないのにさ、
アニキがあんな時間に帰ってくるなんてこと。

なんで、今日に限って・・・・

もしもし?トーコさん?聞いてる?」



「・・・・ええ。」


「いや、ほんと・・・・なんていうか・・・・
・・・・・ごめん。」



「・・・・うううん、いいの。
私こそ・・・・ごめんなさい。」



「トーコさん、
そんなに慌てて帰ることなかったのに。
しかも、自分のこと
『おばさん』とか言うし。」




だって・・・・
そうでなきゃ、私はなんだというの?

ケイタだって、
私のこと、トーコって呼ばなかった。



結局、私はおばさんなのだ。
悲しいけれど、本当のこと。
ケイタといると忘れてしまっていたけど、

おばさん、なのだ。






< 154 / 201 >

この作品をシェア

pagetop