あの頃、テレフォンボックスで
「ケイタ・・・ありがとう。
なんてお礼を言ったらいいか・・・・


でも、もう帰って・・・・・
ここにいちゃ、いけないと思うの。」


「トーコさん、一人で大丈夫?」


「ええ、もう大丈夫。」


ケイタは
「よかった・・・・」と言って、

もう一度私を腕の中に包んで
背中をさすったり
頭を優しく撫でたりしていた。


こんなにも心地いい場所を
私は手放さなければいけない。


それは・・・・
母親、だから。



愛しい想いが溢れ出してきて
ケイタのことを
強く抱き返すけれど、


今日はキスはできない。




「ケイタ・・・・
帰って・・・・・」




自分の気持ちを押さえて
ケイタから
離れる。



時計の針は1時を過ぎている。


送るわ、
といったけれど、
ケイタは「自転車だから」と

片目の端を上げて


笑った。

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