あの頃、テレフォンボックスで
携帯が鳴っている。


ケイタからだと思って
慌てて手にとってみると
それは亜紀ちゃんのママからだった。



ちょうど、ゆうべ未来がお世話になった
お礼も言いたかったので、
お昼に待ち合わせる。



駅近くのホテルにある
中華のレストランで
飲茶のランチをとる。


「中村さん・・・昨日はご迷惑をおかけして
ごめんなさいね。」

「いいのよ、こちらこそ、
未来ちゃんがうちにいるなんて
思いもしなかったもんだから・・・・


気付かなくて、本当、
悪かったと思ってるわ。」



「今日もお仕事お休みしてるの?」


「いいえ、
あのね、私、仕事を辞めることにしたの。
今は・・・有休消化。
知らないうちに貯まってるもんね、有休って。」


「仕事を?どうして?」


「う~ん・・・・そうね、
心境の変化、ってやつ?

離婚してから、勇斗と亜紀を食べさせるために
必死で働いてきたけど・・・
なんか、ちょっと疲れちゃったのかな。


子どもたちが一番甘えたい時期に
甘えさせてやれなかったし。
ま、今さら甘えたがる年でもないんだけど。


北中さんも・・・
君が働かなくても、やっていけるから
家にいてくれたらいい、

って言ってるし。」



「そうなの?
でも、中村さんが仕事を辞めるなんて
なんだか意外・・・・」


「そうでしょ?
8年前には
自分の力で生きていく、なんて言ってたのに。

あのときで、もう私けっこう年だったから
仕事といっても・・・・
8年続けてても
たいした仕事はもらえなかったのよ。





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