あの頃、テレフォンボックスで
「ほら、やっぱり海だ・・・」



海ではあるけれど、
砂浜はない。



堤防の塀越しに
揺れる海を見つめる。


そこは
泳げるような場所ではなく、



青いというよりも
深い緑の水。




・・・・・ここは、
    きっと、いきなりうんと深いんだわ。



いきなり、うんと深い



深い緑色とともに
悲しみをもって
アタマの中にその言葉が
リフレインする。



「あそこから、下へ降りない?」


ケイタくんが指さしたところは
少し塀が低くなっていて
乗り越えられそうな場所。


乗り越えたところで、
海に近づくには
段々になった
コンクリートの斜面を
降りなければいけない。



「ムリよ」


「大丈夫。俺が支えるから。」





先に登ったケイタくんに手を差し伸べられて
思い切って塀を登る。

低いと思っていた塀は
登ってみようとすると

意外に高かった。

「ムリよ」

もう一度言ってみても、
彼は
「大丈夫だから、」

と意に介さない。



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