あの頃、テレフォンボックスで
弾みをつけて登る私を
ケイタくんが引っ張る。

バランスをくずして
塀の上でよろける。


慌ててケイタくんが私を抱きしめる。


ケイタくんの鞄から

定期入れが・・・・・


海に向かって落ちていった。



「ご、ごめんなさい・・・・
もう大丈夫だから、

離して。」


心臓の鼓動は


びっくりしたせいだ。




「何か落ちたみたい・・・どうしよう?」


「いいよ、定期。
もうすぐ期限だったし。」


そのとき、ケイタくんが見つめていたのは、


落ちた定期入れではなくて
抱きしめた
私の残像だったのだろうか・・・・


手を引かれて
コンクリートの斜面を
ゆっくり歩いて降りていく。



海は
近づくと

深緑ではなくて



黒く光って見えた。


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