あの頃、テレフォンボックスで
ワイパーを動かしていても、
視界は悪かった。

こんな雨の日に、
自転車に乗っている人がいるなんて。


暗くてよく見えなかった。
前を向いてはいるものの、
何も見ていなかったのだ。


危ない、


そう思った瞬間に・・・
大きくハンドルを切ってしまった。
咄嗟にブレーキを踏みながら。


ガシャン



大きな音がして
車は民家のブロック塀に
突っ込んだ。



住宅街の中の小さなT字路で
一旦停止したにもかかわらず、
自転車を見ていなかった。


幸い、
相手も私の車に気付いて
急ブレーキをかけたらしく、
スリップして転んだものの、
接触することはなかった。


塀にぶつかっただけで済んだのは
不幸中の幸いだった。


私は動転しながらも、
ケイタに向かって叫んだ。


「降りて、今すぐ・・・・
早く・・・・

帰って・・・・・」



一瞬のできごとに驚いたケイタは
私の勢いに気おされて
慌てて
車から飛び降りて
走って行った。


自転車に乗っていた
若そうな男の子もまた
びっくりして、

立ち上がった途端
逃げるようにその場を
去ってしまった。


ぶつかった家の中から
人がでてきた。


大きな物音を聞きつけて
近所の人も戸外に出てきた。


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