あの頃、テレフォンボックスで
「・・・・ケイタ・・・・
どうして・・・・?

とにかく・・・・中へ入って。」



胸の鼓動をおさえながら
中へ促す。


ケイタを目の前にすると
無理だと思いこむ気持ちが、
揺らぎそうになる。



彼は自転車をフェンス脇に止めた。
フェンスを覆っているトケイソウの葉から
滴り落ちたしずくが
ジャンパーの袖を濡らす。


ケイタが
初めて家に来たとき
ところどころ花を咲かせていた
トケイソウ・・・・・



ケイタを導いて
玄関を入り、リビングルームへ進む。



「どうぞ、座って。」


うつむき加減でソファに座るケイタを
見ている。


愛しい人が、ここにいる。
だけど、触れてはいけない。



私は深く目を閉じて
そしてケイタから目線をそらした。





「行かないで、トーコさん・・・・

これを・・・・・」



お茶をいれようとキッチンに行きかけた私に
ケイタは小さな包みを差し出した。









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