あの頃、テレフォンボックスで
朝早く、
辺りがまだ暗いうちに
彼は出て行った。


ピンと張り詰めた空気の中、
少し濡れた自転車にまたがって


ケイタは何も言わず、
私も話すことばが見つからなくて、

ただ見詰め合ったまま
別れのときを
心に刻んでいた。

これから、
この夜のことが
お互いの心に
深く棲みつくことを願って。




後悔はしていない。


たとえこの先
地球があと50億年生きるとしても
もうケイタの人生が
私の人生に
交わることはない。


たった一度だけ、
ほんの短い間だけ
激しく愛し合った。


その記憶は
私に振り返らない人生を歩ませる。



全ては

この世界のうちでは・・・
ほんの一瞬のできごと。
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