あの頃、テレフォンボックスで
スクリーンに向かって
ずっと涙を流していた私の左手を
ケイタが右手で包んでくれていた。


映画を観るときは
一番うしろの席、と決めている。

むかしからそうだ。

泣きたいシーンで
好きなだけ泣ける。



そして、今は
そんな私をここにつなぎとめてくれる
あなたがいる。





「あんまり、わかんなかったなぁ・・・・」

「退屈な映画だったでしょ?」



ケイタは片目の端を上げて
少し笑った。



今、を生きるあなたには
あの年老いた男たちの気持ちは
わからない。



私は・・・・



私は、


やはり
あなたと今、を生きていたい。

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