あの頃、テレフォンボックスで
ケイタを車に乗せるときは
後ろのシートに座ってもらうことにしている。

運転に自信がない私は
夫以外の人を助手席に乗せるのをためらう。


でも・・・・
貝塚さんに見られたのが
ケイタが後部座席から
出て行くところでよかった。
後輩の母に偶然会って
雨の中を駅まで送ってもらった。

それって不自然じゃないじゃない?



ケイタは無防備だ。
周りの目を気にすることがない。
それが彼のいいところだと思う。

いつの間にか
そんな彼のペースに巻き込まれて
自分のことを忘れてしまう。


私は未来の母親なのよ。
私は佐山・・・佐山瞳子。


そんなことは
どうでもいいことのように思えてくる。



今、
つないでいるこの手を
誰かが見ているとしたら?



誰かに見つかったら
もうケイタに会えなくなるかもしれない。
そのことが
私を悲しい気持ちにさせる。


ケイタ

私は今日もまた
あなたのために
あなたと私のために

嘘をついてしまった。








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