あの頃、テレフォンボックスで
おなかに子どもがいる、
とわかったとき・・・・・

足が震えて、
リアルに・・・心臓がドキドキした。

何かとりかえしのつかない
重大な失敗をしてしまったような。



妊娠検査薬を握り締めて、
止まってしまったかのような
呼吸を再開させるべく
深呼吸をする。




・・・・・そうだ、電話しなくちゃ。



会社に電話する。


「すみません、
佐山さんいらっしゃいますか?」



当時、大学4年だった私は
佐山と「結婚を前提に」
おつきあいしていた。


県内屈指のお嬢様学校に入れたかった
両親は高2の春に
家庭教師として
佐山を連れてきたのだ。


その人柄、学歴、家柄?
をも気に入った両親が
いつまでも佐山を離さず
ついには
婚約するところまで
うまく持っていったのだ。


佐山は私より8つも年上だったので、
早く結婚して
子どもを持ちたいと望んでいた。



「瞳子ちゃん、おめでとう!
よかった~。今日はそちらの家に行くから
ご両親には二人で報告しよう。」



・・・・よかった、・・・のか?


なぁんだ、喜ぶべきことだったのか。



佐山はもう30才。
卒業したら、すぐに結婚するんだし、
子どもができたのは、
おめでたいことなのね。


父も母も喜んでくれるに違いない。

なのに、
どうしようもなく
とりかえしがつかないような気持ちになった
さっきの私は


何?

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