雪が降る町~追憶のletter~
「これ、遅くなって悪い」
俺はそう言って晶の手に生物の教科書を乗せた。
「あ……別に明日でもよかったのに」
「なんとなく。気になったから」
俺は珍しく向かい合うように体を晶に向けて立っていた。
晶はいつもとおなじように俺の方を見ている。
「…じゃあもう寝ろ」
「え?!」
「……期末前に風邪引いたら、俺が勉強見てやんなきゃならなくなりそうだし」
「もう!自分が勉強できるからって!」
いつもと同じように晶がぷりぷりとした反応を見せる。
そんないつもと同じ、晶が、この感じが、好きだ。
「ま、いつでも見てやるよ」
「……見返り求めないでよ?」
「さぁな」
晶が教科書を胸に抱えながら頬を膨らませて言う。
俺はその顔を見て、背を向けてから静かに笑う。
「ほら、早く入れ」
俺がそういうと晶は『おやすみ』と小さく言って部屋に戻って行った。