雪が降る町~追憶のletter~
部屋に戻ってからコートを脱ごうとボタンに手を掛けた。
手がかじかんで、うまく指が動かない。
コートを着たままに、俺は窓に歩み寄る。
そっとカーテンの隙間から晶の部屋を見てみると、ちょうど灯りがついた。
『私はそう、思いたいから』
あの言葉に俺はどれだけ胸を打たれたろう。
動かない指を折り曲げて、コートの上から自分の鼓動を抑えるようにギュッと握る。
だけど、心拍音は高鳴るばかりで…。
「…俺の…ばかやろう…」
前に進むことも、戻ることもできないのは、自分のせい。
こんな風に締め付けられ、張り裂けそうな想いは紛れもなく、恋。
今、そんな恥ずかしげもなく素直に思うのは晶のせい。
―――晶の、存在。
だから、忘れない。
何の涙かわからない、涙なのかすらわからない。
もしかしたら頭に積もり、凍ってしまった雪が溶けた雫なのかもしれない。
それでも、一粒だけ。
俺の頬に冷たいものが伝った。