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同じ授業になったのはラッキーだった。
毎回授業のたびに、彼のことを見れるから。
ちょっとストーカーな感じだけど。
話しかける機会があったら、話せるのだろうけど、今はそれもない。
氷田君の目は、灰色でとても澄んだ色をしている。
いつかその瞳に、私が映れば良いのにな。
桜の木に微笑みかけていたように、私にも微笑みかけてくれたらな……。
と、そんな風に夢を見ている自分は、恋に恋している甘ちゃんだのだろう。
今私は、氷田君の見た目だけに恋をしているのだと思う。
氷田君はいつも男の子達とつるんでいる。
特定の女の子の姿は見たことがない。
彼女がいなかったら良いのになと思うけど、あんなに格好良いのに、彼女がいないわけないだろう。
無謀だとは思いつつも、仲良くなりたいと思ってしまう。
後期が始まって二週間ほど経った。
恋に現を抜かしているわけにもいかず、また新しいプログラミング言語に頭を悩ます日々。
だがそんな時、「機会」は向こうからやってきた。
教授が来る前に、ひゅかと話をしているときだった。
「ひゅかちゃん、やっほ」
低くて、甘い声が私の背後からかかった。
「あ、王子」
「っ!」
ひゅかの言葉に、身体が硬直する。
「ははは、まだ王子って言ってる」
氷田君がひゅかに話しかけた。どうやらいつも一緒にいる彼の友達は、まだ来ていないようだった。
私は彼がこんなに近くにいることに、驚き戸惑う。
心の準備ができていなかった。
心臓がどきどきする。
こんなに胸が高鳴るのは、久しぶりのような気がする。
心の準備ができていたら、ちゃんと「普通」を装えるのに。