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「どうも妹がお世話になっております。これの兄の、幸樹です」

 見た目とは相反して、丁寧すぎるお兄さんだった。

「これとか言うな、馬鹿兄貴」

 ヘルメットをかぶりながら、バイクの後ろに乗るひゅか。
 どうやら、口先だけで、仲の良い兄妹らしい。

「んじゃ、またね、みあ、陣。一緒に待っててくれて、ありがと」
「じゃ、妹をよろしくお願いします」

 嵐のような兄妹が去っていって、私達は苦笑した。

「すっごい兄妹だね。羨ましいな」
「あ、みあは一人っ子か」

 私達は、アパートに向かって歩き出した。
 やっぱり離れて歩く私を、陣が引き寄せた。

「……私も、お兄ちゃんが欲しいな」

 またもや奪われた安全地帯に戸惑う私は、なんとか普通の会話を紡ごうとした。

「俺の方が先に生まれたんだから、俺がみあのお兄ちゃんってことで」
「なにそれ」

 陣は少しだけ照れたように笑って、私の手を握った。

 私は、恥ずかしいとも、嬉しいとも、何にも感じられなかった。
 陣の行動が、あまりにも不可解で、困惑していた。

 さっきから、陣は、おかしい。
 手をつないだりは、好きな人にすることだと思う。
 ただの友達とは、手をつないで歩いたりは、しない。
 私は何も言えずに、当惑の瞳で陣を見た。

「へへ……」

 陣は、寂しそうに、笑った。

「……なんで、手つかんでるの……?」

 私の言葉に、陣はどこか寂しげに、

「みあが、どっか行っちゃうのが、嫌なんだ……」

 と、小さな声で言った。

 私はここにいるのに。
私には、陣の行動の意味がわからなかった。
 指と指を絡ませるように、恋人同士がよくやるように、私と手をつないで歩く、陣の真意が、つかめなかったのだ。

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