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「……みあ……?」
呼びかけられて、びくりと身体を震わせた。
陣が、申し訳なさそうに私を見ている。
蒼白な顔に、ありありと浮かぶ動揺。
「ご、ごめん……」
「……帰る……」
私は、立ち上がろうとしたけど、足元がおぼつかなかった。
身体が小刻みに震えている。
「送る」
陣が私の身体を支えるようにして、歩く。
私は何も言わなかった。
何も、言えなかった。
陣は、途中でタクシーを拾った。
少しの距離も歩けないほど、私はショックを受けていたのだ。
数分のタクシーの中も、二人とも無言だった。
すぐに私のアパートについて、陣が入り口まで送ってくれた。
「……時間を、くれ」
「…………」
陣は、無理やり笑おうとしていた。
「時間があれば、俺、大丈夫になるから」
泣き顔を見られたくなくて、私は扉を閉めた。
とぼとぼと歩いて、私はソファに座った。
座ったまま、硬直しる。
泣きそうだったけど、なぜか涙は出てこなかった。
陣が、私のことを好きになった。
本当は嬉しいはずなのに、ちっとも嬉しくなかった。
だって、私は陣のことを理解しているから。
陣が彼女を捨てて、私を選ばないことくらい、知っているから。
陣は私を選べないのに。
それじゃあ、私達は間違いを犯すだけ。
間違ってる。
そう、このままじゃいけない。
私は、陣のもとから離れなくてはいけない。
このままだと、陣も私も、辛い思いをする。
だけど……。