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手紙
新しいアパートの契約も済み、就職先も決まった。
着々と準備を進めて、卒業式も二日後に迫っていた。
『みあ、王子には本当に何も言わないの?』
「うん、何も言わない」
ひゅかからの電話だった。
「卒業式の次の日には、引っ越す」
『でも、みあ……王子に手紙でも書いたら?』
「手紙?」
『あたしとしては、王子がみあの気持ち何にも知らないままとかは、悔しいから』
「…………」
『みあが思ったこと全部、書いてさ』
「うん、考えておく」
私は電話を切った。
「手紙、か……」
全部書き綴るのも、いいかもしれない。
でも、陣はきっと傷つく。
私の本当の思いを全部綴ったら、きっと陣は怯む。
だけど、私が我慢してきたこと、伝えたほうがいいかもしれない。
自分に対する戒めにもなるから。
もう繰り返さないという、意思表示にもなりそうな気がしたから。
私は、レターセットを取り出した。
机に座って、ペンを握る。
「…………」
私は、もうすぐ陣と会えなくなる。
私は陣への想いを、綴りはじめた。
「……っ」
書いているうちに、手元が震えた。涙が、書いた文字をにじませる。
思えば、私は陣の前で泣かなかった。
陣は、私の涙には気づいていなかっただろう。
だから、この手紙を読んだとき、気づけば良い。
どれだけ、私が陣を想っていたか。