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独立
あれから、五年という歳月が過ぎた。
私が就職したのは、個人経営のITベンチャー企業。
アットホームないい職場だ。
仕事にも慣れて、今では後輩もいる先輩だ。
正直、あういうふうに、陣と離れられるとは思っていなかった。
自分の決断と、行動力を見損なっていたらしい。
五年も経つと、あの頃の事は思い出として思い出せるようになってきた。
だけど、たまにふと思い出して、寂しい想いをする。
それでも、私は今、一人で歩いている。
以前のように、誰かに依存するようなことは、していない。
おかげで、婚期を迎えた今も、独り身である。
恋は、もうこりごりだと思っている節もある。
新しい恋をはじめるには、いろいろありすぎた気もする。
だけど、あれからもう五年だ。
もうそろそろ、心を開いても良いかもしれない。
「佐川さん、この前頼んでたやつ、どう?」
「はい、うまくいきそうです」
今、会社では、大きなプロジェクトに取り掛かっている。
新しいゲームの機能に取り入れられるプログラムの開発だ。
このプロジェクトではゲーム開発で有名な某王手企業とも提携している。
私も、プロジェクトチームの一員に選ばれた。
そうして多忙ながら充実した日々を送っている。
「佐川ちゃん」
「はい、あ、木戸さん?」
木戸篤さんは、もっぱら営業部出の広報担当の人で、このプロジェクトチームでは、交渉の一端を担っている。
長身の素敵な人で、人を惹きつける独特の雰囲気を持ってる人だ。
「明日相手企業と打ち合わせがあるんだ。佐川ちゃんも顔出して」
「あ、はい、わかりました」
「よし、明日受付で三時、出迎えに付き合ってくれ」
と、木戸さんは少し考えるような顔つきになった。