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「ねぇ、木戸君、みあっち可愛いわよねぇ?」
課長が意味深に言う。木戸さんはちょっと困ったような、照れ笑いを浮かべた。
バリバリと働いているスーパーマンの、こんな表情を見ると、ああ、彼も人間なんだと安心する。
私がにっこり笑って木戸さんを見つめると、木戸さんはぱしんと両頬を叩いた。そうやって気持ちを切り替えたようで、
「さて、そろそろ来るんじゃないかな」
木戸さんが時計を見ながら言う。私は玄関を眺めた。
すると二台のタクシーが止まり、一台目からはスーツ姿の男女、二台目からは同じくスーツ姿の二人の男性が降りた。
きっと、彼らがゲーム会社の人なんだろう。
「小沢さん、こちらです」
木戸さんが最年長の男性に声をかけた。最年長といっても、三十代を出たばかりだろう。人のよさそうな顔に、似合わない鋭い眼光が、意志の強さを感じさせた。
「どうも、木戸さん。わざわざ出迎えてくださったようで、ありがとうございます」
私は一歩下がって二人の会話を聞いていたが、あとからやってきた若い男の姿を見て、凍りついた。
「小沢さん、本日はわざわざ御足を運んでくださり、ありがとうございます」
課長が、にっこり笑って小沢さんと握手を交わす。
「河島君は、元気かい?」
「はい、今は長女の相手に忙しいようです」
「そうか、お子さんはおいくつになったんですか?」
「今年で五歳になりました。あ、小沢さん、この子は佐川みあ、技術チームに選ばれているんです」
「そうですか。こんな可愛らしいお嬢さんと一緒に働けるなんて、貴社は羨ましいですな」
課長の言葉も、小沢さんの言葉も、私の耳を右から左へ通り過ぎていった。
「っ!」
向こうも、私に気づいたようだった。
驚愕の表情を隠そうともせず、私を見た。
「佐川ちゃん……?」
木戸さんの心配そうな声も、届かない。
私は、その姿に見入っていた。
灰色の瞳を見開いた彼は、上司の手前、言葉を飲み込んだようだった。
「あ、これは私の秘書の姫木洋子」
小沢さんの横にいる女性が頭を下げた。
「そして彼らは開発チームの、高田信二君に、氷田陣君だ」
私は、この自分の運命を、呪いたくなった。